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ならず者国家(2) [占畑書店]

ここでは、旧ソ連、中国、北朝鮮の飢饉対策について。

引用始め----------
59P
通信・輸送手段が発達した現代では、凶作が原因で飢饉が起こることはめったになく、もし起こったとしても、緊急事態が長引くことはない。鉄道輸送によって世界じゅうどこにでも食糧の大量輸送が可能になった今、大規模な飢饉は天災ではなく人災なのである。戦争が飢饉を起こすこともある。戦闘によって通常の食糧供給が妨げられたり、軍が市民の食糧を略奪するためだ。現代ではこれに加え、革命によっても食糧の生産と供給が妨げられた。とくに農地の私有を禁止し、農民の国営農場や集団農場、コミューンで強制的に働かせることで国家が食糧生産を独占するという乱暴な政策を実施した場合、飢餓が発生する。
一九二一年から二二年にかけて、レーニンが遂行した共産主義のための闘いによって、旧ソビエト連邦では五〇〇万を超える死者が出た。スターリン政権下での一九三〇年代には、農民への弾圧と集団農場化によって大飢饉が起こり、死者の数は八〇〇万人に上った。同じような政策は一九五八年以後の中国、一九七五年以後のカンボジアにも膨大な数の死者をもたらしている。七〇年代のモザンビーク八〇年代のエチオピアでは、集団農場化政策による国家の農地占有に反発して農民が蜂起し、内戦にまで発展した。
これに対し、北朝鮮の飢饉が起きたのは戦時ではなく平時であること、そして農民が国営農場に送り込まれた時期は一九四〇年代から五〇年代であることから、北朝鮮の飢饉は現代史における他の飢饉とまったく異質のものだといえる。つまりこの国では何十年も前から、食糧の生産・備蓄、日用品の配給などに国が全責任を引き受けてきたのである。しかも北朝鮮の飢饉で最も憎むべき点は、支配者層、とくに金正日が、悲劇を早期解決するための政策をとろうとしなかったことだ。北朝鮮国民が味わうことになった塗炭の苦しみは、指導者金正日の無策という前代未聞の恐るべき犯罪行為の結果と言ってよい。
金正日は、レーニンが一九二〇年代の初頭にとった解決策さえも退けた。レーニンは飢饉にあたって、共産主義のための闘いから一歩後退して、国際社会からの緊急食糧援助を受け入れただけでなく、新経済政策(NEP)を導入した。穀物徴発量の削減、市場の再開、小規模商業の奨励によってソ連経済を回復させたのである。中国の指導者も、一九五八年の人民公社の創設にともない三〇〇〇万の死者を出したのち、同様の政策で対応している。毛沢東は国際援助の申し出は断ったが、しぶしぶながら穀物生産の上納分を減らし、農民が限られた自分の土地で耕作し、余剰作物を売ることを許可した。
旧ソ連と中国では、こうした一時的な譲歩策によって食糧生産が回復した。その後も共産主義経済下における慢性的な食糧不足という現実をかんがみて長期的な方針がとられ、さらなる大飢饉を招かずにすんだ。広大な土地を擁する旧ソ連では、都市住民が週末に郊外で耕作を行うことを奨励し、人々は「ダーチャ」という詩的な名前で呼ばれる(簡易住宅付きの)家庭農園で野菜の栽培や家畜の飼育を行ない、政府からの乏しい配給を補うことができた。
毛沢東の対応策は非人道的なものだった。政府が穀物備蓄を充分確保できなくなると、都市部から住民を追い出したのだ。八〇〇〇万人が農村部に移住させられ、農民のわずかな食糧を分け与えられた。これによって中国は、都市の人口比率がおそらく世界一低い国になった。発展途上国での平均は五〇パーセントだが、中国では一二パーセントにまで落ちこんだ。
金王朝はあくまでも共産主義の正当性を追及し、家庭農園の認可も都市人口の削減も拒絶した。北朝鮮では国民の七〇パーセントを都市部に居住させていたが、彼らは庭をはじめいかなる場所でも食物の栽培を厳しく禁じられた。地方の農民は家のまわりにも小さな畑を持つことを許されたが、中国に比べれば狭いもので、収穫物を都市部で売ることも禁じられた。
これによって、なぜ北朝鮮では他の共産主義国よりも食糧不足が深刻で、配給システムも不安定なのかが説明できる。また、北朝鮮の人々が都市を逃れて地方に行く理由も納得できる。一般に飢餓に苦しむ人々は農村部から都市部へ、つまり市場が開かれ食料を得るチャンスの多い場所に逃げるものだが、北朝鮮では食料となる野生の植物や農作物の収穫を分けてもらうため、あるいはみずから耕すことができる土地を求めて農村部へと逃げていった。北朝鮮のような脆弱な経済システムにおいては、慢性的な食糧不足が大飢饉へと変わるには、ごくわずかな状況の変化で充分だった。金正日は国民の命を救うためにその権力を使わず、事態をさらに悪化させる一連の政策を強行したのである。
タグ:北朝鮮
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